変容の象徴―精神分裂病の前駆症状〈上〉
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定価 : ¥ 1,575
販売元 : 筑摩書房
発売日 : 1992-06 |
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評価不能・・ |
解説で秋山さとこ氏も述べているが、この本は茫洋として掴み所がない。わたくしも数回読んで見たが、同じ印象を持った。大量の神話、絵画、宗教譚が引用され、神話的世界が語られるという内容である。教科書的な解説は以下の通りである。のちに統合失調症を発症する、ある女性の日記を対象に、ユングがその妄想、幻想の源泉を別の素材から探してくるというものだ。そのように分析されたからといって治療に結びつくわけでもなさそうだが、ユングは前もって日記が手に入っていれば発症を阻止する方法はあると言っている。
とにかく読者はこの太古の世界の描写にただ唖然とするばかりである。ユングは、人間の妄想や幻想というものが、個人の特殊体験に基づくものではなく、彼のいう集合無意識、すなわち神話的世界の中にすでに広くみられており、それはその妄想をみている人間があらかじめ知っていることなく出現する、つまり、種としての共同の記憶の中に存在するものである、と言いたいのであろう。
しかし、精神分析学の本というより、何やら宗教学や文化人類学、考古学の本を眺めているような印象にとらわれる。正直言ってわたくしにはこの本は評価不能だ。読み返す度にその巨大な神話的世界に圧倒され、その前で立ち尽くすのみである。ユングの主著のひとつだが、たとえば「タイプ論」とは雲泥の差がある。ある意味怪書といえる。
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ユングの分水嶺となった論文 |
この本は、サブタイトルにもあるように精神分裂病を発症する以前に書かれたある女性の日記をベースに、世界の神話的素材を用いて、彼女の心の病理を解き明かしていく。日記に見られる空想、夢、詩、印象を、世界の古今東西、実に様々な神話、芸術、宗教の素材を縦横無尽に駆使し、一人の人間の心の中に、太古の痕跡を、先人の足跡を捕えようとする。これによって、ユングは個人的無意識の更に深奥に人類共通ともいえる集合的無意識があることを立証していく。その迫力には、本当に真に迫るものがある。
我々のような一般のものには、理解が困難で、場合によっては、不能であり、あまりにも話が飛躍するので、これは実際の所、単なるこじつけなのではないかと思われるような箇所が少なくない。しかし、そ!!ような批判もあたらないことは明らかだ。ユングは、世界の神話とその象徴が意味するところを、長年に渡る実地の精神分析の中から見出してきたのだから。
ユングは告白している。「われわれ医師の立場は、他の分野の研究者と同じではない。ある課題を選びとるとか、ある研究分野を自分にあわせて切り取るとかいうことは許されず、治療を要する患者がときには見透しもつかない問題を突きつけ、とても力及ばないと感じるような治療の責任を果たすよう要求するのである。休む間もない研究活動へのもっとも強力な促しをわたしは治療から得た。その核心は「自分に理解できないことをどうすれば治療できるのか?」という聞き捨てにはできない問いであった。」
最後にユングは、次のように締めくくっている。「医師!要なのは心の科学であって、心の理論ではない。学問をするということは正しさを競う争いではなく、認識を豊かにし深めるための作業だ、とわたしは考える。学問について同じように考える人びとに向けて、この論文は書かれた。」
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分析心理学の境界標 |
ユングは、後に精神分裂病になったという女性が書いた空想的なテキストに即して、そこに書かれていることの心理学的な意味を把握するために、あらゆる時代、あらゆる民族の神話や語源をふんだんに引用して、共通するモチーフを指摘する。その結果、個人を超えた集合無意識のあり方が鮮やかに浮かび上がる。
この著作によって、ユングは独自の心理学をはじめて明らかにすることになり、フロイトともたもとを分かった。初版の37年後に大幅に書き換えられたという経緯からしても、ユング自身にとってもこの本がいかに重要な位置を占めつづけていたかがわかる。第四版(最新版)の序で彼は「この本は境界標となった」と述べている。